パワハラ(パワーハラスメント)の理由による解雇、これもまたセクハラと同じく、その場合によりけりということになるでしょう。
殴る蹴るといった傷害罪にあたるような暴力で負傷させた場合には、暴力を受けた側に相当な挑発行為がある等のよほどな事情がなければ解雇は正当でしょう。
それでは、こうした刑法犯に該当しないパワハラの場合はどうでしょうか。
セクハラとは異なりパワハラだけでの解雇というのは、あまりイメージできないのが正直なところであり、実は私も一度も相談を受けたことがありません(セクハラは一定数あります)。
実際、私が裁判例をインターネット等で調べても、パワハラで解雇され、それが有効とされた事例は1件だけでした。もっとあるかもしれませんが、上記のようにあまり簡単に解雇とならなそうです。
この解雇が有効とされたのは、東京地裁平成28年11月16日判決です。この判決の中では、パワハラ行為をした労働者の解雇が有効とされています。この判決を紹介しているWebサイトの情報によれば、特徴として、以下の3点が挙げられていました。
①パワハラの内容が悪質であった
②「二度とパワハラをしない」という趣旨の顛末書を会社に提出したにもかかわらず、別の労働者にもパワハラをした
③尋問における態度でも、正当な指導行為であるとして反省を示さなかった
正直なところ、上記3点がそろっていなければ裁判所も解雇が有効とまで踏み切ったかどうかは、判断が難しいところです。
この裁判例では、パワハラの内容もかなり悪質です。
以下、f、gはそれぞれパワハラを受けた従業員です。
「fが出社後、会社にいることを許さず社外で一日過ごさせるなどの行動に及び,fが休日子どもと遊ぶ写真をフェイスブックに投稿したところ,『よく子どもと遊んでいられるな』と発言するなどして,その結果,fが精神的に耐え難い苦痛を感じ,適応障害に罹患するまでの状態に精神的に追い詰められていたことが認められる。」
「『お前は丸くない,考え方が四角い』という話をして,gが内容を理解できずに意図を尋ねてもまともに答えずに,丸と四角の絵を何度も描かせるなど」したなどと認定されていますので、パワハラの内容の重大性も勘案されていると思われます。
他にも被害者は3名おり、同等の被害を受けております。これを逆に言えば、パワハラを理由に解雇するというのは企業側においては非常に困難と言えるでしょう。
そもそもパワハラと評価される行為は、犯罪ではないからパワハラと定義されるのであって、痴漢や窃盗等の犯罪行為ですら、本人の反省が認められれば解雇されないという裁判例もあります。
そうすると、パワハラというだけで解雇するのは企業側に相当なハードルが課されていると言え、上記の裁判例のように①悪質②厳重注意をしたのに繰り返し行っている③無反省という点が要件になるのではないでしょうか。
どの裁判例でもそうですが、パワハラというのは非常に裁判所での認定が難しい類型です。パワハラに対して損害賠償請求をするのが難しいのと一緒で、企業側が従業員を「パワハラ」で解雇するというのは、なかなか難しいことなのではないでしょうか。
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