残業代請求事件の類型のなかで「通勤時間だと思っていたのが実は労働時間であった」というパターンがあります。今回は具体的な事例として、現場作業に従事する労働者、とくに建設業界において多額の残業代が発生したという場合をご紹介します。
「自宅から会社に行くまでの時間は、いわゆる通勤時間であり労働時間ではありません。」
労働時間ではない、ということは、給料が発生しません。これは、通常の事業所に出勤するときだけでなく、業務命令で出張する時も同じです。
極端に言えば、東京に自宅がある人が札幌に出張する場合でも、原則としてその札幌に到着してその出張先で勤務を開始するまでは労働時間ではありません。札幌まで「通勤」しているとみなされる、と考えて良いでしょう。
しかしながら、建設や土木といった業務に従事している方の場合、使用者(会社)側からすると通勤であると考えていても、実は残業代が発生している場合があります。これは、いわゆる現場仕事の特徴が理由となります。
現場仕事の場合、多くのパターンでは直接現場に行くことはなく、まず会社に寄ってから、現場へ向かいます。もちろん現場も、毎回違います。
特に会社で機材を準備しなければいけない場合も多くあります。多いのは、前日の夜に機材や材料を自動車に積んでおいて、翌朝は集まってそのまま出発するパターンですね。または、会社に作業用車両が置いてあって、会社の作業車で行かなければ作業できないような場合もあります。
これらの場合には、会社に到着して出発の準備をはじめた時からが労働時間になります。そこからの現場までの移動時間も、会社に寄ることを義務付けられている以上、当然、労働時間になります。
会社から乗合で現場に向かう場合、会社での集合が指示されていれば、運転手はもちろん労働者です。運転していない人についても、会社に一回来るように業務命令を受けていると評価できる場合には、会社から現場までの時間は、労働時間となります。
ただし会社に集合することが任意であり、直行・直帰も認められているような場合には、移動時間は労働時間とは評価できないでしょう。
このように単なる移動時間であっても、その移動のタイミングによって労働時間となる場合と、ならない場合があります。上記を踏まえてわかりやすく言えば、直行または直帰ではない場合の移動時間は、原則、労働時間になると考えてよいでしょう。
先に解説した通り、特に建設や現場作業を行う労働者の方は、思わぬ残業代が発生しやすい業種です。気になることがあるという方は、ぜひ一度ご相談ください。
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