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有給休暇の取得拒否は違法ー退職時の消化と賃金請求のポイントー

執筆者の写真: 家頭 恵
家頭 恵
8月29日
読了時間: 5分

更新日:6 日前


 「人手が足りないから、有休は取らせられない」  「忙しい時期に有休を取るなら、辞めてもらう」 「退職するなら、有休は使わずに出勤してほしい」

 こうした会社側の言い分を鵜呑みにして、泣き寝入りしていませんか。

 結論から言えば、これらの多くは労働基準法違反です。今回は、労働者がもつ時季指定権と、会社がもつ時季変更権の法的な限界、そして有給休暇取得時に支払われるべき賃金のルールについて解説します。

 年次有給休暇は、一定の要件を満たした労働者に法律上認められている権利です(労働基準法第39条)。継続勤務6か月以上、かつ全労働日の8割以上出勤していれば10日間が付与され、以後は勤続年数に応じて増え、最終的に年間20日が上限となります。パートやアルバイトも、勤務日数等の条件に応じて付与されます。


 重要なのは、取得に会社の承認は不要だということです。労働者は、いつ休むかを指定するだけでよく、これを時季指定権といいます。事前に届け出れば、原則としてその通りに休暇は成立します。「申請書を上司が受理しない」「理由に納得しないと認めない」といった対応は、この権利を正しく理解していない誤った運用です。

 一方、会社にも、労働者が指定した時季を変更できる時季変更権が認められています。

 ただし、行使できるのは、労働者が指定した時季に有給休暇を取得すると「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます。

 その判断では、事業の規模や内容、労働者の担当業務、代替要員を確保できる可能性、休暇の時期や期間など、具体的な事情が考慮されます。

 そのため、単に「人手が足りない」「他の人も休みたがっている」といった抽象的な理由だけで、当然に時季変更権を行使できるわけではありません。特に、慢性的な人員不足を理由として有休取得を一律に制限することは、認められにくいと考えられます。  また、時季変更権はあくまで有休を取得する「時季」を変更する権利です。有給休暇そのものを取得させない権限ではありません。


 退職時に「引き継ぎがあるから」「人が足りないから」と有休消化を拒まれるケースは、よくいただくご相談の一つです。退職日以降は時季変更が事実上不可能なため、退職前に残日数をまとめて指定された場合、会社は基本的にこれを拒否できません。引き継ぎが心配であれば、休暇期間と両立する形での対応を求めるべきであり、休暇そのものを取らせない理由にはなりません。


 対抗策としては、以下のような対応が有効です。


 ・退職日と有休消化開始日を明記した書面(内容証明郵便が望ましい)で通知する

 ・有休の残日数と取得予定日を具体的に記載する

 ・会社とのやり取りを記録しておく


 「有休を取ったら基本給を減額された」

 「有休を取った月だけ手当をカットされた」


 このようなケースでは、有給休暇取得日の賃金が適切に計算されているか確認する必要があります。ただし、この2つは法的な位置づけが異なるため、分けて考える必要があります。


 まず、有給休暇を取得した場合、会社は、原則として就業規則等に定められた方法により、次のいずれかの賃金を支払わなければなりません(労働基準法第39条第9項)。


(1)通常の賃金

(2)平均賃金

(3)健康保険法上の標準報酬月額を基礎とする額(労使協定がある場合)


 したがって、有休を取得した日を欠勤扱いにして賃金を控除することは、この支払義務に違反し、違法です


(1)を基準としながら、本来含めるべき手当を恣意的に除外して低い額しか支払わないケースも同様です。これらは未払い賃金として、消滅時効(原則3年)の範囲内で遡って請求できます


 一方、「有休を取った月は皆勤手当を支給しない」といった取扱いは、有休を取得した日そのものの賃金の問題ではないため、直ちに違法とはいえません。


 労働基準法第136条は、有給休暇の取得を理由とする賃金の減額その他の不利益な取扱いをしないよう定めていますが、これは附則におかれた努力義務の規定であり、罰則もなく、違反した取扱いを当然に無効とする効力もありません。


 最高裁は、この種の不利益な取扱いについて、その趣旨・目的、労働者が失う経済的利益の程度、有休の取得に対する事実上の抑止力の強さなどを総合的に考慮し、有休を取得する権利の行使を抑制して、労働基準法がこの権利を保障した趣旨を実質的に失わせると認められる場合に限り、公序良俗に反して無効になる、という枠組みを示しています(「沼津交通事件」最判平成5年6月25日*)。この事件では、控除される皆勤手当の額が相対的に大きくないことなどから、結論として会社の取扱いは有効と判断されました。


 つまり、手当のカットについては、「有休を取ったことが理由だから」というだけで当然に取り返せるわけではありません。カットされる金額の大きさや、それが有休を取りにくくさせる程度によって結論が変わるため、実際の規定と金額を確認したうえで判断することになります。


*裁判例参考:

公益社団法人 全国労働基準関係団体連合会

労働基準判例検索-全情報より「沼津交通事件」


 有給休暇をめぐるトラブルは、労働者個人が会社と直接交渉しようとすると、言った・言わないの水掛け論になったり、心理的な負担から結局あきらめてしまったりすることが少なくありません。

 弁護士が代理人として介入することで、以下のような効果が期待できます。

 ・内容証明郵便等による法的根拠に基づいた請求

 ・未払い賃金の算定と回収(有休の取得を拒否されたことによる損害についても、賠償を請求できる場合があります)

 ・会社との直接のやり取りを避けられる精神的な負担軽減  特に、消化を拒否されたまま退職したケースでは、本来取得できたはずの日数分の賃金相当額を請求できる可能性があり、早期の相談が解決までの期間短縮につながります。

 「これくらいで相談してもいいのか」と迷う必要はありません。有休の取得拒否や退職時のトラブルでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。



参考

・e-Gov 法令検索「労働基準法」より

第39条「年次有給休暇」


第120条


第136条

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