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内部通報で報復人事?あおぞら銀行事件から学ぶ公益通報者保護法とは

執筆者の写真: 家頭 恵
家頭 恵
11 分前
読了時間: 6分

 会社の不正や法令違反を知ったとき、「内部通報したいけれど、会社から不利益な扱いを受けないだろうか」と不安になる人もいるでしょう。


 実際、内部通報をした行員が、その後の懲戒処分や降格、配置転換といった一連の措置の適法性を争った事件があります。2026年1月に東京高等裁判所で判決が言い渡された、いわゆる「あおぞら銀行事件」です。


 今回はこの事件を題材に、内部通報をした労働者が法律上どのように保護されるのか、通報後に不当な扱いを受けた場合にどう対応すればよいのかを解説します。

事件概要

 あおぞら銀行をめぐる事件では、行員が会社内部の問題について通報した後、懲戒や降格、配置転換などの人事上の措置を受けたことが争われました。


 この事件で特に問題となったのは、配置転換後、行員が個室で単独の業務を行い、十分な仕事を与えられない状態に置かれたことです。こうした状況は一般に「追い出し部屋」と呼ばれることがありますが、正式な法律用語ではなく、配置転換それ自体で直ちに違法になるわけではありません。


 この行員は、懲戒処分・降格の無効や、差額賃金・慰謝料の支払いを求めて提訴しました。


一審と控訴審判決

 一審の東京地裁は行員側の請求を全面的に退けましたが、控訴審の東京高裁(2026年1月22日判決)は判断を大きく変更しました。懲戒処分・降格・減給をいずれも無効と判断して差額賃金の支払いを命じたうえ、長期間にわたり行員を一人だけの部屋に置いて周囲との関わりを断った配置・運用についても、業務上の合理性を欠く組織的なパワーハラスメントに当たると評価しました。そして、慰謝料と賃金差額等をあわせて約840万円の支払いを命じました。  ここで注意したいのは、高裁がこれらの措置を内部通報への報復とまでは認めなかった点です。つまり一連の人事措置は、公益通報者保護法ではなく、人事権の濫用やパワーハラスメントという別の枠組みで違法と判断されたのです。


 このように、会社が人事異動や懲戒として行った措置でも、労働者が無条件に受け入れなければならないとは限りません。一方で、通報後に人事異動があったという事実だけで直ちに報復人事と断定できるわけでもなく、通報の時期や措置の理由、前後の仕事内容などを総合的に確認する必要があります。

 内部通報をした労働者を守る法律の一つが「公益通報者保護法」です。この法律では、一定の要件を満たす公益通報をしたことを理由に、労働者を解雇するなどの不利益な取扱いが禁止されています。


 ただし「会社の不正を通報した=必ず保護の対象になる」というわけではありません。法律で定められた対象事実について一定の要件を満たして通報する必要があり、どこに通報したかによっても保護の要件は異なります。


 また、不利益な取扱いは解雇だけではありません。通報を理由として、


・降格や減給をする

・不合理な配置転換をする

・懲戒処分をする

・仕事を与えない

・本来の職務から外して孤立させる


 といった対応も問題となる可能性があります。「解雇されていないから法律上は問題ない」と考えるのは早計です。


 もっとも、あおぞら銀行事件が示すように、「通報を理由とした不利益取扱いだ」という点そのものを立証するのは簡単ではありません。裁判所が報復を認めなかった場合でも、パワーハラスメントや人事権の濫用、民法上の不法行為として損害賠償が認められる可能性があります。

 2025年6月に公布された改正公益通報者保護法が、2026年12月1日に施行されます。改正法では、通報を理由とした解雇・懲戒処分への刑事罰の新設や、通報から一定期間内の解雇・懲戒について会社側に立証責任を転換する仕組みなどが導入されます。


 ただし、これらの保護の対象は解雇・懲戒処分に限られ、配置転換そのものは含まれていません。あおぞら銀行事件のような配置転換による不利益は、改正後もパワーハラスメントや人事権の濫用といった一般的な労働法の枠組みで争わざるを得ない場面が残ると指摘されています。


 内部通報後に突然の配置転換や仕事外しといった扱いを受けた場合、まず大切なのは、通報からその後の人事措置までの経緯を記録しておくことです。あおぞら銀行事件のように、報復だと裁判所に認めてもらうのは容易ではないため、通報との関連だけでなく、人事措置の理由や仕事内容の変化といった事実関係を具体的に残しておくことが重要です。


 例えば、


 ・いつ、誰に、何を通報したのか

 ・通報後、いつから人事上の措置を受けたのか

 ・会社からどのような理由を説明されたのか

 ・配置転換の前後で仕事内容や周囲との関わり方がどう変わったのか

 ・上司や人事担当者から何を言われたのか

 ・仕事を与えられなかった期間や、孤立させられた状況


などを、できるだけ具体的に残しておきましょう。通報時のメールや会社からの通知、面談の記録なども、後から経緯を確認する重要な資料になります。


 会社の人事権は無制限ではなく、報復か否かにかかわらず、業務上の合理性を欠く不利益な扱いであれば、法律上の問題となる可能性があります。ただし違法かどうかは個々の事情によって変わります。「通報した後から明らかに扱いがおかしくなった」と感じたら、労働問題に詳しい弁護士などに相談するのも選択肢です。経緯や措置の内容、会社の説明を時系列で整理しておくと、状況を伝えやすくなります。


 なお、証拠として会社の資料を保存する場合でも、機密情報や他人の個人情報を無制限に持ち出してよいわけではありません。保存方法に不安がある場合も、専門家に相談すると安心です。

 内部通報は、会社の不正や法令違反を正すための重要な手段であり、通報したことによって不当な扱いまで我慢しなければならないわけではありません。


 あおぞら銀行事件のように、裁判所が報復と認めなくても、通報後の人事措置がパワーハラスメントや人事権の濫用として違法と判断されることがあります。特に、ほとんど仕事を与えられない、職場から孤立させられたといった不自然な扱いは、複数の観点から問題になり得ます。


 「会社の人事だから仕方がない」と一人で抱え込まず、まずは通報からの経緯を記録し、自分のケースが法律上問題になるか判断できない場合は、早めに弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。



参考 ・弁護士JPニュース「内部通報したら「8畳の部屋で3年3か月独り勤務させられ」…あおぞら銀行員が逆転勝訴 東京高裁、約840万円の賠償命じる」

https://www.ben54.jp/news/3130 ・弁護士JPニュース「内部通報したら「8畳の部屋で3年3か月独り勤務させられ」…あおぞら銀行員が逆転勝訴確定も、なぜ慰謝料は「100万円だけ」なのか」https://www.ben54.jp/news/3933

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