内定辞退で損害賠償?学生が知るべき法律知識
- 家頭 恵

- 6月30日
- 読了時間: 5分
就職活動の最終局面、志望企業からの内定通知を受け取った瞬間は、多くの学生にとって大きな喜びの瞬間です。しかし、その後の状況次第では、内定を辞退しなければならないこともあります。第一志望の企業から内定が出た、家庭の事情が変わった、進路変更など、理由はさまざまです。 またそのとき、「辞退してもいいのだろうか」「企業から損害賠償を請求されたりしないか」という不安が頭をよぎるのではないでしょうか。 そもそも「内定」とは法的にどのような意味を持つのでしょうか。単なる口約束なのか、それとも法的拘束力を持つ契約なのでしょうか。
今回は、内定の法的性質を整理したうえで、学生側の辞退の自由と、企業側が取り得る対応の限界について解説します。
多くの人は、内定を「企業と学生の間の、将来に関する口約束」程度に考えているかもしれません。しかし、法律の世界では、内定が出た時点ですでに正式な契約が成立しているとみなされます。
最高裁判所の判例*によると、内定の法的性質は「始期付解約権留保付労働契約」と定義されています。3つの要素に分解すると、以下の通りです。
(1)労働契約:企業が内定を出した(=採用内定通知を送った)時点で、企業とあなたの間には労働契約が成立しています。
(2)始期付:実際に働き始める日(例えば4月1日)という「始期」があらかじめ設定されている、という意味です。
(3)解約権留保付:「大学を卒業できなかった」「健康上の理由で働けなくなった」など、事前に示された特別な理由(内定取消事由)がある場合に限り、企業側が契約を解除できる権利(解約権)を残している、という意味です。
つまり、企業から内定通知を受けた時点で、あなたはすでに、その企業との間で将来の入社を前提とした法的関係に入っているのです。
*判例参考:
雇用関係確認、賃金支払請求事件(最高裁判所第二小法廷・昭和54年7月20日判決)
「契約が成立しているなら、勝手に辞退したら契約違反になるのでは?」と疑問に思われるかもしれません。しかし結論から言うと、学生側からの内定辞退は、実務上も広く認められています。現実にも、複数の企業から内定を得たうえで進路を比較検討することは一般的です。
その根拠となるのは、憲法と民法の2つです。
まず、日本国憲法第22条は「職業選択の自由」を保障しています。どの企業に就職するか、あるいは就職を取りやめるかという選択は、憲法上の権利として個人の意思に委ねられています。
次に、民法には、期間の定めのない雇用契約(多くの正社員雇用がこれにあたります)について、次のように定められています。
ー当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法 第627条第1項)ー
内定も労働契約の一種ですから、このルールが適用されます。辞退の申し入れから2週間が経過すれば、法律上は契約が終了します。法律上での最低限のルールとして言えば、入社予定日が4月1日であれば、遅くとも3月中旬までに申し出ることが目安となります。通常は、法的責任を問われることは考えにくいでしょう。
ただし、マナーと法律は別物です。法的には自由であっても、できるだけ早めに、誠実に辞退の意思を伝えることは、社会人としての礼儀であり相手企業への配慮でもあります。
内定辞退の意思を伝えた際、企業から強硬な反応を受けることがあります。こうした対応は、どこからが法的に問題となるのでしょうか。以下のような対応は、ハラスメントや不法行為として違法となる可能性があります。
・執拗な引き止めや脅迫的な言動:
「辞退したら就職先に連絡する」「大学に報告する」「訴訟を起こす」などの発言は、脅迫罪や強要罪(刑法 222条・223条)に問われる可能性があります。辞退の意思を伝えた後も繰り返し電話をかけ続けたり、会社に来るよう強制したりする行為も同様です。
・不当な違約金やペナルティの請求: 労働基準法では、賠償予定の禁止(第16条)を定めており、あらかじめ違約金を設定することを禁じています。「内定を辞退したら一律〇万円払うこと」といった内定辞退違約金の請求は、法律上完全に無効です。また、全員参加が原則の一般的な内定者研修の費用などを後から請求されることも、原則として応じる必要はありません。
・大学へのクレームや圧力: 辞退を理由に大学へ過度なクレームや圧力をかける行為は、社会的相当性を欠く対応として問題となる場合があります。
繰り返しになりますが、法律上は退職の自由が広く認められているとしても、内定を辞退する場合は、できるだけ早く誠実に伝えるのが鉄則です。
企業側も、あなたを迎え入れるために様々な準備(配属先の検討、備品の購入、採用活動の終了など)を進めています。辞退が決まったら、速やかに電話やメールで連絡を入れ、お詫びと感謝の気持ちを伝えましょう。
一方で、もしも企業から不当な圧力を受けた場合には、以下の対応を検討してください。
まずは、客観的な証拠を残すことが重要です。電話のやり取りはメモをとり、メールや書面はすべて保存しておきましょう。
次に、一人で抱え込まないことです。相談先としてあげられるのは、所属する大学のキャリアセンター、労働局の総合労働相談コーナー、ハローワーク、労働問題を扱う弁護士事務所があります。まずは気軽に相談してみましょう。
法律はあなたの「職業選択の自由」をしっかり守っています。毅然とした態度で、納得のいく進路を選んでください。ただし、法的に自由であることと、誠実に行動することは矛盾しません。法律の知識を持ったうえで、相手企業への敬意を忘れずに対応することが、社会人としての第一歩につながるのではないでしょうか。




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