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  • 執筆者の写真家頭 恵

【裁判例を基に検証】簡単に仕事をクビにすることはできません!


 日本において、会社は労働者を簡単に解雇すること(=クビにすること)ができないようになっています。労働契約法第16条によって、「解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と、定められています。


 つまり、一般的に納得のいくような理由がない限り、労働者をクビにしてはいけない、というような意味です。就業規則に記載されている解雇理由に形式的に該当した場合であっても、それだけで使用者が当然に解雇することはできません。


 では、解雇の理由として認められないもの、認められるものの線引きはどうなっているのでしょうか。「社会通念上相当」と言われても、社会通念とはそもそも時代によって変化するわけです。このような抽象的概念であるため、正直なところとても争いが多く、弁護士の間でも見解は異なり、似たような事例でも個別の事情で判断が分かれるところでもあります。


 そのため、ここではいくつか有名な裁判例を挙げさせてもらいます。

(1)アナウンサーが5分~10分遅刻した事例

 有名な判例です。遅刻は2回したという事実が認定されていたようですが(アナウンサーの遅刻というのは致命的に思えますが)、労働者の反省、遅刻が短時間であったこと、いきなりの懲戒解雇は重すぎるということでの判断です。


(2)女子社員に対して宴会の席で「胸が大きいな」などと複数回述べたり、肩を抱いたりした事例

 身体的接触があったものの、飲み会の席でのことで短時間であること、発言の前後の文脈からして直ちに解雇するような重大なハラスメントではない、反省の態度が示されるとした上での判断です。


(3)能力不足を理由にした事例(成績評価としては同社の従業員の下位10%に位置していたとのこと)

 この裁判例を見る限りは、会社の方で教育、配置転換等をして能力の向上を図る余地があるのだから、解雇無効としています。能力不足による解雇は、事例としてはほぼ無効です。


(4)業務外での犯罪行為

 

 ア 住居侵入:「横浜ゴム事件」として、こちらも有名な裁判例

 業務外での犯罪の場合、懲戒解雇は重すぎるとしました。ただ、本件は酩酊して他人宅に侵入した事件であり、明確な故意のある窃盗目的等なら、どうなるか不明ではあります。しかし、就業規則等に「有罪判決を受けた場合は解雇」と記載していたとしても、その内容によっては解雇が許されないということがわかります。


 イ 飲酒運転

 公務員の事例ですが、業務外での飲酒運転での免職は裁量権の濫用であると判断されました。民間企業においては、当然に無効となると考えられます。※その後、物損事故の場合には免職相当との判決もあり、これも内容次第です。

(1)電車の車掌が、電車内で痴漢行為をした

 通常、痴漢行為だけで解雇になることはありません。痴漢の内容や態様、回数にもよりますが、示談のうえ反省をしていれば、まず解雇ということはないでしょう。本件では、電車の車掌、すなわち「痴漢を取り締まる側である」ということが重要視されたと思われます。ただしこれは、前科もあった事例とのことです。1回目で解雇されてたら有効かどうかはわかりません。


(2)上司の指導に従わず、顧客からのクレームが相次いだ

 こちらは、一般的には解雇の相当性はなさそうな事案です。しかし、判決文として紹介されている中には、労働者が全く反省の態度がないこと、複数回注意してもこれを改善しなかったこと、これが原因でクレームが相次いだことが記載されています。これは私の想像なのですが、この労働者は証人尋問でも反省の態度を示さなかったのではないでしょうか?

 解雇に際しては、まさにその理由が「合理的」かどうかが問題となるのですが、本当に合理的なもの、例えば会社に対する横領等の犯罪行為や、長期の無断欠勤等勤務する意思が全く見られないような場合には、問題なく合理的と判断されるでしょう。実際にそのような理由を争った裁判例も見当たりません。


 解雇の有効無効で争いとなった事例は、いずれもその理由自体は相当と感じれる程度の非行、ないし就業規則を形式的に当てはめると解雇となる事例です。何らかの指導をすることなく、ある事案が原因で突然解雇している場合には解雇無効となりやすく、一方で会社がきちんと指導・警告をしていたにもかかわらず無反省な態度を取っている場合には解雇が有効となりやすい傾向があります。


 不当解雇かどうかは、こういった手続きや反省の姿勢というのもまた重要であると考えられます。もしも会社から、不当かもしれないと思われる解雇を言い渡された際には、まず弁護士に相談してみましょう。





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