• 家頭 恵

弁護士が教える バイトテロが起きる前に知っておきたいこと

最終更新: 2019年10月21日

 SNS(ソーシャルネットワークサービス)の普及により、自身の近況や体験、面白いことなどを多くの人に簡単に共有することができ、それと同時に共感してもらえる喜びもリアルタイムで得られやすくなりましたね。

 ただ、一方でもっと多くの”いいね”が欲しくなったり、他の投稿よりもインパクトの強い投稿をしたい欲求に駆られ、危険な行為や、モラルに欠ける投稿も増えているように感じます。

 皆さんの記憶にも新しいかと思いますが、バイトテロはまさにそういった現代社会を象徴するような事件だったと思います。本稿では、バイトテロを起こさない、起こさせない為には何が必要なのか弁護士の視点でお話したいと思います。

 バイトテロの定義は、これといって定まっているわけではないですが、wikipedia等によると「アルバイトの店員が、商品や什器を使用して悪ふざけを行う様子を写真撮影し、  SNS(ソーシャルネットワークサービス)に投稿する行為のことを指す」とされています。  実際は、このSNSの投稿がそもそも公開情報だったり、仲間内へ発信したものでもそのスクリーンショット等が公開されることで、批判が殺到する状態も含めて、「バイトテロ」と言われる一連の行為のようです。

 主体はアルバイト店員、客体は商品や什器で撮影、それをインターネット上に公開する、というのが一応の定義のようです。有名になった事例では、牛丼屋店員が盛り付けた牛丼の肉を鍋に戻した投稿、そば屋の店員が業務用冷蔵庫で寝そべる状況を撮影した投稿等が挙げられます。

 この他にも、アルバイトによる倫理観の極めて低い行為も含まれ、例えば、来店した有名人の写真やクレジットカードの明細を公開する、レンタルビデオ店等で得た個人情報を利用してナンパする等もこのテロに含むという定義もあるようです。

問題としては、この行為により客が減少し、店舗が謝罪に追い込まれることや、閉店せざるを得ないような状況に陥ることです。悪いのはこういった行為をした店員にもかかわらず、です。


 これらのバイトテロは、おおむね刑事責任が問われると考えられます。

この行為により店・店舗の信用が低下することは信用棄損罪になる可能性があります。

また、食品の衛生が損なわれて開店することが困難になる場合などは、業務妨害罪が成立する可能性もあります。

 しかし、報道などを見ても、これらのバイトテロを行った実際に刑事事件で処分になった、という話は聞きません。もちろん、報道されていないものもあるでしょうし、もしかしたら刑事処分があったものもあるかもしれません。私たちからしても犯罪とは思えますが、警察の見解は異なるのかもしれません。信用棄損、業務妨害といった罪はそもそも件数として立件事体が少ないということも影響しているのではないか、と推察しています。


 一方、民事上の責任も追及された事例はいくつか報道されています。

民事上の責任ですが、店舗が休まざるを得なかった場合の休業損害、客が減ったことによる将来の損害、テロの対象になった商品そのものの損害等が損害と考えられます。個人事業主の場合には慰謝料もありえるでしょう。報道の影響、拡散の度合によっては、慰謝料や風評被害による損害は、相当高額になることも予想されます。

 バイトテロを原因として閉店・破産に追い込まれたそば店の例では、200万円を支払うということで和解が成立したとされています。ただ、実際の賠償は、そのバイトテロ行為によりどれだけ客が減ったか、閉店したかどうか、因果関係の問題もあります。賠償範囲はかなり高額だと思われますが、「風評被害」「将来の売上減少」といった抽象的な損害については、裁判所が冷たいことは事実であり、上記そば店における賠償請求額は1000万円を超えていたが、結局200万円で和解したとのことです。

 私が調べた限りでは、こういったバイトテロで訴訟となり、判決で実際に賠償額が確定したという報道は無いです。しかし、これはアルバイトをしている人に現実に賠償する能力がないために、訴えること自体を躊躇していることが原因だと考えられます。


 「テロとの戦い」ですから、テロというのはどんなに警戒しても起きます。それが止められるなら世界でテロは流行ってませんね。しかし、100%止めるのは無理でも、確率を下げることはできます。まずは、従業員に携帯電話、カメラの持ち込みを禁止させる事が重要でしょう。こういった施策は、従業員は不満に思うかもしれませんが、業務効率のアップにもつながると思われますし、法律上も当然許されます。

 あとは、「会社に不満がある」「他の従業員から仲間外れにされている」という従業員は注意した方がいいです。こういった社員は、会社に迷惑がかかるということについて何らの抵抗が無く、いつ「テロ」を起こしてもおかしくありません。


 契約上損害賠償額の予約をしておき、賠償請求しやすくするという契約上の工夫も有効です。実際に賠償請求できるかどうかはともかく、契約があるんだ、という意識があれば、従業員もテロ行為に及びにくいでしょう。

 バイトテロは、する側もされる側にも重大な影響があります。


 バイトテロをした方は、民事、刑事の両方で罰されるということのみならず、このような投稿をしてしまったという屈辱、傷が一生残ります。


 「赤ヘル1975」という広島カープが初優勝した時の小説があります。

これを読むと、45年前は野球の試合が終わってグラウンドに入り込み、中日ドラゴンズの監督やエースを殴っても罰されなかったとのことです。

 信じられないですが、これは現実です。しかし、現代は全く違います、そんなことをしたら殴った人の名前だけではなく勤務先・学校・家族・友人まですべてインターネットで公開されるでしょう。そういった監視社会の中で、自分だけ目立つことが法律上どれだけのリスクがあるのか、常に考えて行動することが大切です。


 バイトテロをされる方は、それは自分がいつ、そういったテロ行為の被害にあうかわからない、自衛をする必要もあるでしょう。法律は万能ではなく、テロを事前に防ぐことはできませんが、契約や業務命令の方法によって確率を下げることは可能です。




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代表弁護士 家頭 恵